LISTEN -1-




毎日の様に訪れるそれは、いつしか雲雀の心へ何かを植え付けていく様だった。
今日もまた、部屋の主の許可どころかノックすらも無く開かれる応接室の扉。
そちらへと視線をやれば期待を裏切る事なく彼が居た。

「暇なんだね」
「お前に会う為に時間作って来てんだよ」

お決まりの挨拶を交わすと、その男は雲雀の座るソファーへと無遠慮に腰を下ろした。
当然の様に隣へ腰を下ろす男に雲雀は眉を寄せて見せる。雲雀が顔を顰めれば、大抵の人間は 怯えた表情を見せ逃げていくのだが、彼はそうでは無い。
逃げるどころか、可愛い顔が台無しだぜ〜、等と語尾にハートマークでも付きそうな惚けた声 を上げ体を寄せてくるので、不快極まりない。
鬱陶しさに小さく舌打ちをして、彼が来るまで目を通していた委員の報告書の続きへ視線を戻すと、 つまらなさそうにディーノはソファの背凭れへ身を沈めた。

「構ってくれねぇの」
「いつも構ってないだろ」
「そうれもそうだけどな」

暫く書類を眺め、最後の一枚にサインを記入する。これで今日の仕事はおしまいだ。
書類の束をデスクへ丁寧に置くと丁度良いタイミングで下校時刻を知らせるチャイムが鳴り響いた。
同時にディーノは勢い良く立ち上がり、嬉しそうに表情を綻ばせ雲雀を背後から抱き竦めた。

「終わったのか?一緒に帰ろうぜ、ついでに寄り道して美味いモンでも食おうぜ」
「やだ。一人で帰る。夕飯は家で食べるからいらない」
「んな連れねーこと言うなって。美味いハンバーグ専門店見つけたんだ。予約もしちまったし」
「・・・しつこいな。今日だけだよ」
「よっしゃ!」

今日だけだと言っては、これまで何度二人で食事をしただろうか。
結局いつもディーノに流されているのである。しかしそこで都合良く雲雀の腹の虫が騒ぎ始めた。 腹が減っては戦が出来ないらしいので、大人しくその店へ向かう事にした。

ディーノの車に乗り込み暫く走ると、木々に囲まれた静かな土地にひっそりと佇む、 隠れ家のような木造の店に着いた。
店内へ入ると、外見から想像される通りのアットホームな雰囲気で、まあ悪くは 無いかと思いつつ、席へ腰を落ち着かせる。
どうやら奥の席は暖簾が下げられ、半個室の様になっているようで、通された その席の脇には窓があり、外には木々が広がっていた。

「中々良いだろ?ロマがアイツ等と見つけたらしくてな、 この間俺も食べに来たんだが、味も良いんだぜこの店」
「そう」
「この店イチオシの和風ハンバーグが絶品でさぁ、それ食ってみるか?」
「じゃあそれで良いよ」

店員にオーダーを頼み暫く待つ。料理を待っている間もディーノは舌を 噛むのではないかという程、くだらない話をペラペラと語り続けている。
全くよく動く口である。呆れ半分関心半分で聞き流していると、やっとお待ちかねの 料理が運ばれてきた。

「うまそうだろ!沢山食えよ!」

確かに、食欲をそそる良い香りが鼻腔を擽る。
ナイフとフォークで食べやすい大きさに切り分けたそれを口へ運ぶと、噛む度に広が る肉汁とあっさりした味付けのソースが更に食を進ませた。
想像していたよりも満足だと言える味に、フォークとナイフは次々と進んでいった。

気付けばおかわりまでしてしまっていた。
食事を終えた二人は店を後にして、車を走らせている。胃袋が満たされ、そして次にやっ てきたのは眠気だった。
思わず欠伸を落とすと、ディーノが運転席から横目で様子を伺ってくる。

「眠いか?」
「別に」
「俺の泊まってるホテル、くるか?」
「行く訳ないだろ。商店街の入口で下ろして」
「家まで送ってやるぜ?」
「いらない。貴方に家を教えたらそれこそ休む暇が無くなるよ」
「ちぇ、つれねーの」

結局その後は、言った通りに商店街の入口で降ろしてもらい、まっすぐ自宅へとへ帰ったのだ。






next