LISTEN -3-




熱い湯を浴びていくらかスッキリしてしまえば、うじうじと考えているのが 馬鹿らしくなってしまった。
ディーノがキスすれば何か分かるかもしれないと言うのだ、だったらさっさ とキスをしてしまえば良いだけの事ではないか。

広々としたリビングへ戻ると、上質なソファーへ腰を下ろす。着替えなど持ってきている 筈も無いので、用意されていたバスローブに身を包んだ。
バスローブを身につけるのは初めてだったので居心地が悪かったが、ディーノのシャツを 借りるのは裸で居るよりも腹が立つので、仕方ない。
しかしこのバスローブも少しサイズが大きいようで、裾が長い。結局やはり体格は 彼とは全く違うという事を思い知らされてしまった。

全く、この男はどこまでも人を不愉快にしてくれる。
一人苛立っていると、キッチンで何やらしていたらしいディーノが二つのグラスを手に 戻ってきた。
氷が浮かべられた麦茶を受け取り、熱さで火照った体を冷ます様にそれを一気に飲み干した。

「さっぱりしたか?俺も汗かいちまったからシャワー浴びてくるな」

そう残してシャワールームへ向かったディーノの背を見送り、溜息を一つ落とす。
するのならさっさとしてしまいたい。頭の中をぐるぐるしていた思考が落ち着き、やっと すっきりしたかと思えば、次は変な緊張感。
キスくらい、と思ってはいたが、実際よく考えてみると、他人の唇が己のそこへ 触れる訳であって。あの跳ね馬の唇が…自分の…、とそこで自分の妄想した光景に頬が熱くなった。

何を考えてるんだ、気持ち悪い!

熱を上げた頬を冷ますように、置いてあったディーノの分の麦茶も飲み干してやる。
全く、最近浮つき過ぎている。気を引き締めなければいけない。これでは風紀を取り締まるどころか 自ら乱してしまっているようなものである。

気を取り直し、目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をしてみた。
何度か繰り返し、やっと心も落ち着いたところで、タイミング良くディーノが戻ってきた。

「上がったぜー」
「お茶。喉渇いた」
「え?そんなに冷たいもん飲んで大丈夫か?シャワー熱すぎたんじゃねぇか?」

そう言いながら新しく注がれた麦茶を、今度は大切にゆっくりと喉へ流し込んだ。
よし、大丈夫そうだ、心音も乱れていない。
ディーノが隣に座る。いよいよかと顔を上げると、困惑したような、躊躇するような、 そんな不安定な瞳と視線がぶつかった。
何なんだ、ここまで来ておいて、今更やめようだとか言い出すつもりだろうか。ふざけるの も大概にしろと言いたくなるが、まあやめるならそれはそれで構わない。

「キスするんじゃないの」

やめるつもりなのかもしれないが、一応聞いておいてやる。
すると目の前の整った顔が困った様な笑みを浮かべた。

「いや…なんつーか…、お前も俺もシャワー浴びてて、 これからイケナイ事するみてぇだなって思ってな…?」
「…そこまで許した覚えは無い」
「え?いやマジでするわけじゃねぇよ!雰囲気がさぁ!!」

全く、分かっていた事ではあるが、彼は馬鹿である。

取り敢えずキスはするらしい。
改めて、ソファーの上でディーノと雲雀は向き合った。雲雀の 頬を包むように、大きな手が添えられる。
目を瞑るように言われ、そっと目を閉じると、唇に、柔らかくて温いものが、触れた。







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