LISTEN -4-




今日は平日だ。今日から一週間、風紀の取締週間として早朝から校門の前に 立たなければならない。
群れは嫌いだが、風紀を取り締まらなければいけないので、仕方ない。
いや、違反者をぐちゃぐちゃに咬み殺す事が出来るので、悪いばかりでは無いのだが。

今日はいつも以上に、校門前での取締が面倒に感じていた。

「おっ、きょーや!」

来た。
雲雀の倦怠感の原因である。この男。

結局、キスをしたからと何かが分かったりはしなかったのだ。
ひとつ言うならば、何故か、キスをする前よりも無性に顔を合わせるのが気まずくなった。

ディーノの顔を確認し、舌打ちした雲雀に、校門をびくびくと通っていく生徒や、共に取締に あたっていた風紀委員のモノたちが、涙を瞳に浮かばせて大袈裟に飛び上がった。
いつ自分が目を付けられてもおかしくは無いのである。ついに殺されるのかと驚いていた周囲が 、ガクガクと膝を震わせている事など気にも止めず、雲雀は傍に立っていた委員の一人に、後は 任せるとだけ告げて、校舎の中へと消えていった。

雲雀が応接室へ辿り着いてからものの数秒遅れでディーノが転がり込んできた。
文字通り、転がっているのである。

「…何してるの」
「いってぇー…、いや、学校の廊下って滑りやすくてなぁ…」
「……」

その台詞は何度目だろうか。
兎に角、いつも彼が応接室を訪れるのは放課後であるのだが、なぜ今日に限って 朝のしかも登校時間にやってくるのか。
前々から空気が読めないヤツだとは思っていたが、ここまでだとは思いもしなかった。

「あれからちゃんと帰れたか?」
「馬鹿にするな、幼稚園児じゃあるまいし」
「あーいや、精神的に?」
「は?」
「だってお前、キスした後すげぇエロい顔して…」
「馬鹿な事ばかり言ってるとその顔二度と見られないようにするよ」
「え!あ、すまん」

ディーノの一言に怒りを露に睨み付けた雲雀は、 悪い空気が篭った部屋を換気するために窓を開ける。
今日は快晴だ。それに反して雲雀の心は、また以前と同じように、否、それよりも もっと曇ってしまっている。
思わず小さな溜め息を落とすと、後ろからそっと近づいていたディーノが、雲雀を背後から 優しく抱き締めた。

「なぁ。キスしてから、何か分かったか?」
「別に何も、貴方が鬱陶しいって事は改めてよく分かったけど」

よくもまあ、こんなに暑い日に、密着していられるものだ。
暑苦しいので、後ろからへばりつくその身体を片手で押し退けると、意外とすんなりと離れていく。
ソファーへ身を沈めると当たり前の様に横にディーノが腰を降ろした。

「俺は分かったぜ」
「へぇ、何が分かったのかな」
「やっぱり俺は、お前の事、凄く愛してるんだなって」
「はっ、おめでたい頭だね」

どんな顔をしていれば良いのかも分からず、俯いたまま生意気に答える雲雀を、 ディーノはいとおし気に見つめてから、クス、と小さな笑みを落とした。
笑われた事に気付いた雲雀が顔を上げて睨みつける。

「何」
「いや、もうお前ほんっと可愛い」
「だから鬱陶しいって言ってる」
「はいはい、悪かったな」

わしわしと撫でられた黒髪が、ぐしゃぐしゃにされ乱れる。
うざいと言ってその手を払い、乱れた髪を撫で付けて整えている雲雀に、相変わらずな 明るい笑みを浮かべてディーノは立ち上がった。

「今日、あのホテルで待ってるから、学校終わったら来てくれねぇか?」
「は?何で僕が」
「お前に俺の気持ち、分からせてやるよ」
「くだらない。行かないよ」
「それでも待ってるさ」

そう言い残して、折角整えたばかりの髪をまたくしゃくしゃに掻き回されて、 ディーノは帰っていった。

胸の辺りで暴れるような、この居心地の悪い感情が何なのか。
自らそれに気付くには、雲雀の心はまだ幼過ぎたのかもしれない。






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